2013年04月20日

小川和久著『もしも日本が戦争に巻き込まれたら!』

久々の読書ブログ更新ですが、今回選んだのは小川和久著『もしも日本が戦争に巻き込まれたら! 日本の「戦争力」vs. 北朝鮮、中国』です。

著者である小川和久氏は、国際変動研究所の理事長であり、現在は静岡県立大学の特任教授も兼任しています。本書は北朝鮮と中国の情勢に焦点を当てて、戦略論を展開しており、軍事や国際情勢について豊富な専門知識を持つ小川さんの主張にはたいへん説得力があると感じます。ほんの200ページ程度の本ですが、軍事や国際情勢に関する深く鋭いインテリジェンスが詰まっており、必読の1冊だと思います。

本ブログでは、北朝鮮編のポイントを以下にまとめてみました。

そもそも話の出発点として、北朝鮮は本当に脅威なのか? 新聞であれ、テレビであれ、官僚であれ、学者であれ、北朝鮮の脅威をいたずらに騒ぎ立てる者は「北朝鮮の手先」同然だ。多くの日本人はマスコミその他が流す北朝鮮脅威論に影響されて、恐ろしいと思い込んでいる。

日本国内で北朝鮮の脅威を煽れば煽るほど、日本国民はビビってしまう。そして日本人が北朝鮮を怖れれば怖れるほど、日本の北朝鮮に対する外交的な立場は弱くなる。すると、北朝鮮は労せずして外交的な優位に立つ結果となる。これは明らかに北朝鮮を利する行為だ。

日本の北朝鮮に関する議論は「木を見て森を見ず」になっている。世界という森の中で北朝鮮はどのような木として生えているのか。森いちばんの大木である米国、かなり大きな木である日本、あるいは周囲に生えている中国や韓国やロシアはどうなっているのか。そういう全体を見れば、北朝鮮は世界という大きな森の端っこに立つ貧相で枯れかかった小木にすぎないことがわかる。情緒的な脅威論に代わるべきは、北朝鮮の軍事的な現状を理性的な目で見て、その等身大の姿をつかみ、安全な国にしていくことだ。

では、北朝鮮の軍事力とはどんなものなのか? それは端的に言えば、「質より量」を重視したバランスの悪い軍隊で、特に陸軍が圧倒的に多くなっている。しかし、現代の戦争では、巨大な陸軍がいればどうにかなるというものではない。どんな陸軍でも、強力なエアカバー(空からの攻撃と支援)がなければ戦えない。

北朝鮮の航空戦力を見ると、大きな問題があることがわかる。現代の航空戦では、航空機を効果的に作戦行動させるにはまずAWACS(空中警戒管制機)が不可欠だが、北朝鮮は1機も持っていない。空中で長時間作戦行動するためには空中給油機も不可欠だが、これも1機も持っていない。

しかも、北朝鮮の作戦用航空機580機の90%以上は半世紀前の1960年代前後に旧ソ連で開発された代物で、旧式な上に整備状態も悪く、ポンコツだらけだ

その上、財政事情が悪く、燃料が買えないため、飛行訓練が十分にできない。北朝鮮空軍のパイロットは10年間に35時間しか飛べない、という亡命軍人の証言もある。対して、韓国空軍のパイロットの飛行時間は年間200時間以上、航空自衛隊でも150時間以上になる。トム・クルーズ主演の映画で有名になったトップガン(米海軍のエリート・パイロット)は年間400時間以上も飛行する。

北朝鮮空軍が朝鮮半島の制空権を維持できないことは、陸軍の作戦遂行能力にも大きく影響する。その陸軍は戦車の数でこそ確かに韓国の1.5倍だが、中身を見ると、「軍事博物館なみ」の旧式モデルのオンパレードだ。北朝鮮戦車の最新型は旧ソ連崩壊時に購入したT72を改良したもので、主力は旧ソ連が1962年に第一線に配備したT62戦車だ。さらに、なんと第二次世界大戦でドイツ軍相手に大活躍したT34まで顔を揃えている。

対する韓国陸軍の戦車は、国産のK1が1420両、ロシア製T80が80両、米国製M48が850両、M47が400両という陣容だ。120両ある在韓米軍のM1戦車は世界最強だ。

北朝鮮の海軍は、フリゲート艦3隻、潜水艦23隻、高速ミサイル艇など沿岸用艦艇387隻、魚雷艇173隻、哨戒艇166隻という陣容だ。大半は老朽化した小型艦艇で、現代の海戦を戦うシステムを持っていない。このように北朝鮮の軍事力は陸、海、空のどれをとっても韓国軍、米軍に大きく見劣りする。

さらに、実は我々日本国民は、北朝鮮の現実的な脅威に対して、その軍事的な暴走を抑止する極めて効果的なシステムを既に2つ持っている。1つは日米同盟で、もう1つは国連軍だ。

日米同盟の根本は、言うまでもなく日米安全保障条約だ。その第5条と第6条の内容を簡単に言えば、「もし北朝鮮が日本を武力攻撃すれば、米国はその攻撃を米国に対する攻撃と見なして北朝鮮に反撃する。そのような事態を想定する米国は日本に駐留する」ということになる。

日本国民はノドンやテポドンなど北朝鮮のミサイルに強い関心があるため、まず、ミサイルについてわかりやすく説明すると、以下のようになります。

日本を拠点とする米海軍は、巡航ミサイル「トマホーク」を艦船に搭載している。これはターボ・ジェットエンジンを積み、時速約700キロで飛ぶミサイルだ。GPS(全地球測位システム)と地形追随装置を搭載し、発射から目標まであらかじめ定められたルートを、地形を識別しながら高度数十メートルで飛び、ピンポイントで目標を撃破する。通常弾頭型が搭載する爆薬は450キロで、射程距離は1250〜1600キロになり、日本やその周辺から北朝鮮全域をカバーすることができる。

トマホークは、原子力空母ジョージ・ワシントンを主力とする機動部隊10隻のうち9隻の巡洋艦・駆逐艦が標準装備している。その数は少なくとも400発以上で、おそらく数百発規模になる。さらに、2008年10月に横須賀に寄港した巡航ミサイル原潜のオハイオは、154発のトマホークを搭載している。これは米最大の弾道ミサイル原潜を改造した潜水艦で、特殊部隊の作戦基地としての機能も持っている。これらの艦船は、場合によっては合計800発のトマホークを発射できることになる。

実際に有事となれば、湾岸戦争やイラク戦争の例から、米国は空母機動部隊を6つ日本周辺に展開すると考えられる。そうなると、理論的にはトマホークだけでも3000発程度が配備される計算になる。

さらに、米軍は、射程距離2500キロで爆発力150トンの核弾頭型トマホークの核弾頭を米本土に保管してきた経緯がある。

以上が、北朝鮮を取り巻く「森」の現実の姿である。ノドン・ミサイルを最大200基配備する北朝鮮が、それを日本に向けて撃てば、大量のトマホークのお返しを覚悟しなければならない。それでも足りなければ、米国は核弾頭型トマホーク数十発以上を北朝鮮に撃ち込む用意をしてきたのである。

こういうことから、北朝鮮が暴走し、万が一にも日本にミサイルを撃ち込めば、金正恩体制が崩壊するどころか、それは北朝鮮という国家の消滅を意味することになる。彼らは、米国に本気で反撃されたら一巻の終わりだと知っているのだ。

2つ目の国連軍についての説明は、以下のようになります。

1950〜53年の朝鮮戦争は、北朝鮮軍に対して、国連軍と韓国軍が戦った。では、1953年7月に休戦協定が成立し、朝鮮戦争が休戦状態に入って60年近くが経過した今、国連軍はどうなったのか? 解散していなくなったのか。

実は、朝鮮戦争を戦った国連軍は現在も韓国に駐留しているのだ。韓国は、ソウルの竜山に国連軍司令部がある。在韓米軍司令官が司令官を兼任し要員400人で、米国、カナダ、英国、フランス、オランダ、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、ギリシャ、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、タイ、トルコ、コロンビア、南アフリカの16ヶ国で編成されている。

日本は東京都の横田基地に国連軍後方司令部があり、司令部要員は4人だ。米国、カナダ、英国、フランス、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、タイの8ヶ国で編成されており、駐在武官兼務を含む連絡将校団23人が常駐している。3〜4ヶ月に1回、情報交換のための非公式会合を開催している。

日本は1954年に8ヶ国と「国連軍地位協定」(中身の大部分は日米地位協定と同じ)を結んでいる。日本にある米軍基地のうちキャンプ座間、横田、横須賀、佐世保、嘉手納、普天間、ホワイトビーチの7ヶ所が国連軍基地に指定されており、そこでは日章旗と星条旗に並んで国連旗がはためいている。

しかし、ほとんどの日本人は日本に国連軍が存在していることを知らない。それどころか、日本政府でさえ、韓国に司令部を置き日本に後方司令部を置く国連軍とは何かがちゃんとわかっていない。それに対して、米国、韓国ともに、朝鮮半島の有事などで米軍が国連軍として行動する時には、在日米軍、在韓米軍と来援する米軍が全て国連軍になるという認識を持っている。

本ブログの最後のテーマとして、敵地先制攻撃論について、以下にまとめておきます。

現在の日本の自衛隊には、いわゆる「パワー・プロジェクション」(戦力投射)能力が全くない。つまり、戦略核兵器や数十万人規模の陸軍などによって海外の敵国を制圧し、戦争目的を達成するだけの能力を持っていない。この大前提を抜きにして「先制攻撃論」を軽々に論じること自体が全くナンセンスな話だ。

日本が北朝鮮の攻撃を阻止する、あるいは戦意を喪失させるためには、単独で北朝鮮を占領できる程度の自立した軍事力を持っていなければ不可能だ。もちろん、そのような戦力増強のためには、日米同盟を解消して自立できる軍事力を整備し、防衛費も自衛官も大幅に増やさなければならない。先制攻撃ができるパワー・プロジェクション能力を持ち、現在のレベルの安全を確保しようとすれば、現在の5倍に当たる120万人程度の自衛官を持つほどの覚悟が必要になる。

彼らに支払う国家公務員特別職の給料が年間13兆円、防衛費総額は30兆円近くに達する。人件費削減のために国民皆兵のようなシステムを導入したとしても、年間20兆円近い防衛費がかかる。こういうシナリオを考えると、現在の先制攻撃論はこうした問題を一切無視した空理空論なのだ。

posted by 平井和也 at 19:19| Comment(0) | 読書 学術 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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